"

80歳のお母様へ。高齢者のインプラント治療は可能?年齢よりも大切な条件とは

こんにちは。愛知県安城市の歯医者、せきれい歯科クリニック 院長の太田 彰です。「人生100年時代」と言われる現代、歯科医療の役割は、単に歯の病気を治すだけでなく、患者様がいくつになっても、ご自身の口で美味しく食事をし、楽しく会話をし、心から笑える、そんな豊かな人生をサポートすることにあると、私は考えています。

先日、ご高齢のお母様を想う、心優しいご家族の方から、このようなご相談をいただきました。

「現在80歳の母が、入れ歯が合わずに困っています。食事もままならないようで、見ていて辛いのですが、このような高齢でもインプラント治療は可能なのでしょうか?年齢の上限はありますか?」

お母様の「噛めない」という苦しみを、何とかしてあげたいというお気持ち、痛いほど伝わってきます。そして、インプラントという選択肢に望みを託したいという想いも、よく分かります。

まず、結論から申し上げます。インプラント治療に、年齢の上限はありません。 大切なのは、年齢という数字ではなく、その方の「お体の健康状態」です。今回は、ご高齢の方がインプラント治療を検討される際に、私たちが何を重視するのか、そして、治療によって得られる素晴らしいメリットについて、詳しく解説していきます。

 

目次

 

  1. 【結論】インプラント治療に「年齢の上限」はありません
  2. 年齢という“数字”よりも重要な「3つの健康条件」
  3. ご高齢の方だからこそ得られる、インプラント治療の5つの大きなメリット
  4. ご高齢の方の治療で、私たちが特に配慮していること
  5. 負担が少なく、効果は絶大。「インプラントオーバーデンチャー」という選択肢
  6. まとめ:お母様の「噛める喜び」と「笑顔」を取り戻すために

 

1. 【結論】インプラント治療に「年齢の上限」はありません

 

「もう80歳だから、手術が必要な治療は無理だろう…」多くの方が、そう思われているかもしれません。しかし、現代の歯科医療において、その考え方は、もはや過去のものとなりつつあります。

実際に、当院でも80代、あるいは90代の患者様が、インプラント治療を無事に終えられ、「何でも噛めるようになった」「食事が楽しくなった」と、素晴らしい笑顔を見せてくださるケースは、決して珍しくありません。

私たちが治療の可否を判断する際に最も重視するのは、「暦年齢(れきねんれい)」、つまり戸籍上の年齢ではなく、「生物学的年齢」、すなわち、お体の本当の健康状態です。たとえ80歳であっても、お体の状態が安定していれば、治療は十分に可能です。逆に、お若くても、重度のコントロールされていない持病をお持ちの場合は、治療が難しいこともあります。大切なのは、年齢という数字に縛られることなく、その方にとって、治療のメリットがリスクを上回るかどうかを、医学的に正しく判断することなのです。

 

2. 年齢という“数字”よりも重要な「3つの健康条件」

 

では、私たちが「お体の健康状態」を判断する際に、具体的にどのような点を確認するのでしょうか。主に、以下の3つの条件がクリアできるかどうかが、大きなポイントとなります。

  1. 全身疾患が、かかりつけ医のもとで安定してコントロールされていること ご高齢の方の多くが、高血圧や糖尿病、骨粗しょう症といった全身疾患をお持ちです。これらの持病があるからといって、すぐにインプラントができないわけではありません。大切なのは、かかりつけのお医者様の指導のもと、お薬などで病状が安定した状態に保たれていることです。私たちは、手術の前に必ずかかりつけ医と連携(医科歯科連携)を取り、患者様の全身状態を正確に把握した上で、安全に手術を行えるかを見極めます。
  2. インプラントを支えるための、十分な顎の骨があること 長年入れ歯を使っていると、顎の骨が痩せて(吸収して)しまい、インプラントを埋め込むための十分な厚みや高さが不足している場合があります。治療前には、必ず歯科用CT撮影を行い、骨の状態を三次元的に精密に検査します。もし骨の量が不足している場合でも、骨を増やす「骨造成」という処置や、短いインプラント(ショートインプラント)を用いるなど、負担の少ない方法で対応できる場合もあります。
  3. ご自身、またはご家族のサポートによる、適切な口腔ケアが可能なこと インプラントを長持ちさせるためには、治療後の毎日のセルフケアが不可欠です。ご自身で、インプラントの周りを清潔に保つことができるか、あるいは、ご家族や介護士の方のサポートによって、口腔ケアを維持できる環境にあるか、という点も非常に重要になります。

 

3. ご高齢の方だからこそ得られる、インプラント治療の5つの大きなメリット

 

合わない入れ歯に悩み続けるご高齢の方にとって、インプラント治療は、単に「噛める」だけではない、計り知れないほどのメリットをもたらします。

  1. 「食の喜び」と「栄養」を取り戻せる:硬いお漬物、お煎餅、お肉…。これまで諦めていた食べ物を、再び味わうことができます。バランスの取れた食事は、全身の健康と体力を維持する源泉です。
  2. 認知症予防への貢献:「噛む」という行為は、脳への血流を増やし、脳を活性化させることが科学的に証明されています。しっかりと噛めることは、認知機能の維持にも繋がるのです。
  3. 誤嚥性肺炎のリスク低減:食べ物を細かく噛み砕けるようになることで、誤嚥(食べ物が誤って気管に入ること)を防ぎ、高齢者の命に関わることもある「誤嚥性肺炎」のリスクを低減させます。
  4. 会話への自信と、豊かな表情:入れ歯が外れる心配がないため、ご友人やご家族との会話を、心から楽しむことができます。口元の筋肉も正しく使われるようになり、表情も若々しくなります。
  5. 転倒防止:しっかりと噛みしめられることは、全身のバランス感覚を保ち、踏ん張る力を生み出します。これは、転倒防止にも繋がると言われています。

 

4. ご高齢の方の治療で、私たちが特に配慮していること

 

ご高齢の患者様に、安心して治療を受けていただくために、私たちは最大限の安全配慮を行っています。 かかりつけ医との密な連携はもちろんのこと、手術中は、血圧や血中酸素飽和度などを常に監視する「生体情報モニター」を使用し、全身状態の変化に即座に対応できる体制を整えています。また、手術計画も、できるだけお体への負担が少ない、低侵襲で短時間な術式を選択します。

 

5. 負担が少なく、効果は絶大。「インプラントオーバーデンチャー」という選択肢

 

「全ての歯をインプラントにするのは、費用も体への負担も大きすぎる…」そんな場合に、非常に有効なのが「インプラントオーバーデンチャー」という治療法です。

これは、最小限(下顎であれば2~4本)のインプラントを埋め込み、それを“支柱”として、上にかぶせる入れ歯をパチンと固定する方法です。入れ歯は取り外し式なので、お手入れが非常に簡単な上、インプラントが支えになることで、従来の入れ歯とは比較にならないほどの安定性を得られます。

手術の負担も、費用も、通常のインプラント治療より大幅に抑えられるため、ご高齢の方の「入れ歯が動いて噛めない」というお悩みを解決するための、まさに“良いとこ取り”の治療法として、近年非常に注目されています。

 

6. まとめ:お母様の「噛める喜び」と「笑顔」を取り戻すために

 

お母様を想うあなたへ、今回の話の要点をまとめます。

  1. インプラント治療に年齢の上限はなく、80代、90代でも可能。
  2. 判断基準は年齢ではなく、コントロールされた全身状態口腔ケアの可否。
  3. インプラントは、ご高齢の方の「食」「健康」「自信」を支え、生活の質を劇的に向上させる。
  4. 負担の少ない「インプラントオーバーデンチャー」という優れた選択肢もある。

「もう歳だから…」と、お母様ご自身が諦めていらっしゃるかもしれません。しかし、これからの人生を、もっと豊かに、もっと元気に過ごすための可能性が、まだ残されています。

まずは、お母様の現状を正確に把握し、どのような選択肢があるのかを知るために、ご家族一緒に、カウンセリングにお越しになりませんか。その一歩が、お母様の「噛める喜び」と「最高の笑顔」を取り戻すための、何よりのプレゼントになるかもしれません。


© Sekirei Dental Clinic