こんにちは。愛知県安城市の歯医者、せきれい歯科クリニック 院長の太田 彰です。
インプラント治療を検討されている方、特に食事の際に最も力がかかる「奥歯」の治療を考えている方から、必ずと言っていいほどいただくご質問があります。
「奥歯は噛む力が強いと思いますが、インプラントの歯が欠けたり、壊れたりすることはないのでしょうか?もし万が一壊れてしまったら、修理は簡単にできるのですか?」
ご自身の歯ですら、硬いものを噛んで欠けてしまうことがあるのですから、人工の歯であるインプラントの強度にご不安を感じるのは、当然のことです。高価な治療だからこそ、その耐久性や、万が一の際の対応について、事前にしっかりと知っておきたいですよね。
今回は、そんな奥歯のインプラントの「強度」と「修理」に関する疑問について。インプラントの構造から、実際に起こりうるトラブル、そしてその対処法まで、詳しく解説していきます。
目次
- まず構造を理解する:インプラントは3つのパーツでできています
- 【結論】奥歯の強い噛む力に、インプラントは耐えられるのか?
- では、何が「壊れる」可能性があるのか?起こりうる機械的トラブル
- もし壊れてしまったら?具体的な修理の方法と、その簡便さ
- 破損を防ぎ、インプラントを長持ちさせるために、最も重要なこと
- まとめ
1. まず構造を理解する:インプラントは3つのパーツでできています
インプラントの強度を理解するために、まず、インプラントが1本の歯のように見えて、実は3つのパーツから成り立っていることを知る必要があります。
- インプラント体(フィクスチャー) 顎の骨の中に埋め込まれる、ネジの形をした「人工歯根」の部分です。チタンという非常に丈夫な金属でできており、骨と強固に結合して、歯全体の土台となります。
- アバットメント インプラント体と、最終的な被せ物とを連結するための「土台」となるパーツです。これもチタンやジルコニアといった、強度の高い材料で作られます。
- 上部構造(被せ物) 私たちが普段「歯」として認識している、外から見える白い部分です。奥歯の場合、非常に硬いセラミックの一種である「ジルコニア」などで作られます。
この3つのパーツ構造が、実は、万が一のトラブルの際に、修理を容易にするための重要なポイントにもなっています。
2. 【結論】奥歯の強い噛む力に、インプラントは耐えられるのか?
さて、核心のご質問「奥歯の強い噛む力に耐えられますか?」にお答えします。 はい、現代のインプラント治療は、奥歯にかかる60kg以上とも言われる強大な力にも、十分に耐えられるように設計されています。
その強さの秘訣は、前述したパーツの材質にあります。 まず、土台となるインプラント体は、骨と直接結合(オッセオインテグレーション)することで、天然歯の歯根に勝るとも劣らない、非常に強固な基盤を形成します。このチタン製のインプラント体そのものが、噛む力で折れたり、破損したりすることは、極めて稀です。
そして、その上で噛む力を直接受け止める上部構造(被せ物)には、奥歯の場合、「ジルコニア」という材質が用いられるのが現在の主流です。ジルコニアは「人工ダイヤモンド」とも呼ばれるほどの強度と靭性を誇るセラミックで、天然歯のエナメル質よりも硬いとされています。このジルコニアを用いることで、奥歯のインプラントは、日常的な食事でかかる力に対して、十分な耐久性を発揮することができるのです。
3. では、何が「壊れる」可能性があるのか?起こりうる機械的トラブル
「絶対に壊れない」と言い切れるものが、この世に存在しないのもまた事実です。インプラントも、長年使用する中で、稀に機械的なトラブル(メカニカルトラブル)が起こる可能性はゼロではありません。
- 最も可能性のあるトラブル:上部構造(被せ物)の欠け(チッピング)や破損 これは、天然の歯が硬いものを噛んで欠けることがあるのと、全く同じ現象です。氷や骨、ナッツの殻などを、不意にガリっと噛んでしまった場合、被せ物の一部が小さく欠けたり、稀に割れてしまったりすることがあります。 しかし、これはある意味、インプラントシステム全体の“安全装置”としての役割も果たしています。もし被せ物が全く欠けないほど硬すぎると、過剰な力がかかった際に、中のインプラント体や、周りの骨にダメージが及んでしまう可能性があります。交換可能な被せ物が先に壊れることで、より重要な土台部分を守っている、と考えることもできるのです。
- 次に考えられるトラブル:スクリュー(ネジ)の緩み インプラント体とアバットメント、あるいはアバットメントと被せ物は、非常に小さなネジで固定されています。長年、毎日何千回と噛む力がかかることで、このネジがごく稀に緩んでくることがあります。
- 極めて稀なトラブル:インプラント体やアバットメントの破折 これは、非常に強い歯ぎしりや食いしばりがコントロールされていない場合や、噛み合わせの設計に問題がある場合などを除き、まず起こることはないと考えていただいて結構です。
4. もし壊れてしまったら?具体的な修理の方法と、その簡便さ
万が一、これらのトラブルが起きてしまった場合、修理は可能なのでしょうか。そして、それは大変な処置なのでしょうか。
- 被せ物が欠けたり、割れたりした場合 小さな欠けであれば、その部分を滑らかに研磨するだけで済むこともあります。大きく割れてしまった場合は、被せ物だけを新しく作り直します。 重要なのは、この際、再び歯茎を切ったり、骨を削ったりといった、外科手術は一切必要ない、ということです。インプラントの土台はそのままに、型取りをして、新しい被せ物を作製し、装着するだけです。これは、通常のむし歯治療で被せ物を作り直すのと、ほぼ同じ手順です。
- スクリューが緩んだ場合 これは、さらに簡単な処置で解決します。被せ物の上には、ネジを締めるための小さな穴が、詰め物で塞がれています。その詰め物を外し、専用のドライバーで、緩んだネジを適切な力(トルク)で締め直すだけです。数分で完了する、非常に簡便な処置です。
このように、インプラントで起こりうるトラブルのほとんどは、再手術を伴わない、比較的簡単な処置でリカバリーが可能なのです。これも、3つのパーツに分かれている、インプラントの構造的なメリットと言えます。
5. 破損を防ぎ、インプラントを長持ちさせるために、最も重要なこと
インプラントの破損リスクを最小限に抑え、長期間にわたって安心して使い続けるためには、以下の3点が非常に重要です。
- 適切な噛み合わせの設計 これは、私たち歯科医師の役割です。特定の場所に力が集中しないよう、噛み合わせのバランスを精密に調整し、インプラントに過度な負担がかからないように設計します。
- ナイトガードの使用 特に、寝ている間に歯ぎしりや食いしばりの癖がある方。自覚がなくても、顎の筋肉の張りなどで、その可能性を指摘された方は、夜間に「ナイトガード」というマウスピースを装着することが、インプラントを守るために絶対に不可欠です。睡眠中の無意識の強大な力から、インプラントと被せ物を守ってくれます。
- 定期的なメンテナンス 歯科医院での定期検診では、ネジの緩みがないか、噛み合わせに変化はないか、被せ物に異常な摩耗が起きていないか、といった機械的な側面も、プロの目で厳しくチェックします。トラブルの“兆候”を早期に発見し、大事に至る前に対処することが可能です。
6. まとめ
奥歯のインプラントの強度と、万が一の際の修理について、ご安心いただけましたでしょうか。
- 奥歯のインプラントは、ジルコニアなどの強固な材料で、強い噛む力にも十分耐えられるよう設計されています。
- 骨の中のインプラント本体が壊れることは極めて稀で、最も起こりうるのは、被せ物(上部構造)の欠け。
- 被せ物の破損やネジの緩みは、再手術の必要なく、比較的簡単に修理が可能。
- 破損を防ぐためには、ナイトガードの使用(必要な場合)と、定期的なメンテナンスが何よりも重要。
インプラントは、非常に丈夫で、信頼性の高い治療法です。そして、万が一の際にも、修理しながら長く使い続けられるよう、よく考えられたシステムになっています。過度に心配することなく、治療のメリットに目を向けていただければ幸いです。あなたの具体的な噛み合わせや生活習慣も踏まえて、最適な設計をご提案しますので、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。