"

「喫煙者はインプラントができない」は本当?治療を受けるための条件と、あなたが知るべきリスク

こんにちは。愛知県安城市の歯医者、せきれい歯科クリニック 院長の太田 彰です。

インプラント治療を検討されている方から、ご自身のライフスタイルに関するご相談をいただくことは少なくありません。その中でも、特に多く、そして切実なのが、喫煙に関するこのご質問です。

「私は喫煙者です。タバコはインプラントに良くないと聞きましたが、絶対に禁煙しないと治療は受けられないのでしょうか?」

長年の習慣をすぐに変えることの難しさは、私も理解しております。そして、「治療はしたい、でも禁煙は…」というお気持ちの狭間で、深く悩んでいらっしゃる方も多いことでしょう。

結論から申し上げますと、「絶対に禁煙しなければ、100%治療が受けられない」と一概に断言はできません。しかし、喫煙を続けたままインプラント治療を行うことには、治療の成功率を著しく低下させる、科学的根拠に基づいた、非常に深刻なリスクが伴います。今回は、なぜタバコがインプラントの“天敵”と呼ばれるのか、その理由と、もし治療を受ける場合に歯科医師が提示する条件について、詳しくお話しさせていただきます。

 

目次

 

  1. なぜタバコはNG?ニコチンが引き起こす「血流障害」という最大の問題
  2. 喫煙がもたらす2つの致命的なリスク
  3. 歯科医師が提示する、インプラント治療を受けるための「最低条件」
  4. それでも喫煙を続けた場合の、インプラントの未来
  5. インプラント治療は、あなたの健康を見つめ直す「絶好の機会」
  6. まとめ

 

1. なぜタバコはNG?ニコチンが引き起こす「血流障害」という最大の問題

 

インプラント治療の成功は、「インプラントと顎の骨が、いかに強固に結合するか(オッセオインテグレーション)」という一点にかかっています。この骨との結合プロセスにおいて、最も重要なのが、手術した部分への豊富な血液供給です。血液は、骨が作られるために必要な酸素や栄養素、そして細菌と戦う免疫細胞を運ぶ、まさに“生命線”だからです。

しかし、タバコに含まれるニコチンには、血管を収縮させる強力な作用(血管収縮作用)があります。喫煙をすると、お口の中の毛細血管が縮こまり、手術部位への血流が著しく低下してしまいます。

これは、例えるなら**「栄養も水も乏しい、カラカラに乾いた土地に、高価な苗木を植えようとしている」**のと同じ状態です。どれだけ良いインプラントを、どれだけ正確に埋め込んでも、それを育むための土壌(骨と歯茎)の環境が悪ければ、苗木が根付くことができないのは、想像に難くないでしょう。

 

2. 喫煙がもたらす2つの致命的なリスク

 

血流の悪化は、具体的に2つの大きなリスクとなって、あなたのインプラントに襲いかかります。

  • リスク①:初期固定の失敗(骨と結合しない) 手術直後から、骨がインプラントと結合していく最も大切な時期に、血流が不足することで、骨の再生能力が低下します。その結果、インプラントと骨がうまく結合せず、いつまでもグラグラしたまま、最終的にはインプラントを撤去せざるを得ないという、最悪の事態を招くリスクが、非喫煙者に比べて格段に高まります。時間も、費用も、手術の負担も、全てが無駄になってしまうのです。
  • リスク②:インプラント周囲炎の発症と重症化 無事にインプラントが骨と結合した後も、本当の脅威は続きます。喫煙は、インプラントの歯周病である「インプラント周囲炎」の最大のリスク因子です。 ニコチンの影響で歯茎の血流が悪くなると、細菌に対する抵抗力が低下し、感染が起こりやすくなります。さらに厄介なことに、血流が悪い歯茎は、炎症のサインである**「出血」が起こりにくく**なります。そのため、インプラント周囲炎が発症しても気づきにくく、静かに進行し、気づいた時にはインプラントを支える骨が広範囲に溶けてしまっている、というケースが非常に多いのです。

 

3. 歯科医師が提示する、インプラント治療を受けるための「最低条件」

 

これらの深刻なリスクを踏まえ、私たち歯科医師は、喫煙されている患者様に対して、インプラント治療を行うための「条件」を提示させていただきます。

それは、「少なくとも、手術前後の一時的な禁煙」です。

具体的には、

  • 手術の2週間以上前から
  • 手術後、インプラントが骨と結合するまでの約2~3ヶ月間

この期間、禁煙していただくことが、治療の成功率を少しでも高めるための、最低限の約束事となります。もちろん、これはあくまで最低条件です。長期的なインプラントの寿命を考えるならば、治療を機に、完全な禁煙(卒煙)を目指されることを、私たちは心の底から強くお勧めします。

 

4. それでも喫煙を続けた場合の、インプラントの未来

 

もし、一時的な禁煙も難しい、あるいは治療後に喫煙を再開した場合、どうなるのでしょうか。その場合、私たちは、インプラントの長期的な成功をお約束することが、非常に困難になります。

多くの歯科医院では、インプラントに「保証期間」を設けていますが、その保証条件の中に、「禁煙指導に従っていただけること」が含まれているのが一般的です。もし、喫煙が原因でインプラントに問題が生じた場合、保証の対象外となる可能性が高い、ということもご理解いただく必要があります。

これは、決して私たちが「罰」を与えているわけではありません。コントロール不可能な高いリスクを抱えたままでは、そもそも医療としての予後を保証することができない、という医学的な判断なのです。

 

5. インプラント治療は、あなたの健康を見つめ直す「絶好の機会」

 

ここまで、喫煙のリスクについて厳しいお話をしてきました。しかし、見方を変えれば、インプラント治療は、あなたがご自身の健康と本気で向き合うための、**またとない「きっかけ」**になり得ます。

「この高価なインプラントを、絶対に長持ちさせたい」 「健康な歯を取り戻して、これからの人生を豊かにしたい」

その強い想いが、これまで何度も挫折してきた禁煙を、成功に導くための強力なモチベーションになるかもしれません。禁煙は、インプラントだけでなく、歯周病のリスクを下げ、さらには全身の健康を守ることにも直結します。私たちは、お口の専門家として、禁煙外来のご紹介など、あなたの禁煙への挑戦も、全力でサポートしたいと考えています。

 

6. まとめ

 

喫煙されているあなたが、インプラント治療を成功させるための重要なポイントは、

  1. 喫煙は、血流を悪化させ、インプラントが骨と結合するのを著しく妨げる。
  2. 初期固定の失敗や、インプラント周囲炎のリスクが、非喫煙者に比べて何倍にも高まる。
  3. 治療を受けるためには、手術前後、最低でも2~3ヶ月の禁煙が絶対条件。
  4. インプラントを長持ちさせ、ご自身の健康を守るためにも、完全な禁煙(卒煙)を強く推奨する。

あなたの「噛める喜びを取り戻したい」という想いは、とても尊いものです。その想いを実現するために、私たちはプロとして、最善を尽くします。だからこそ、あなたにも、治療の成功のために、少しだけ、勇気ある一歩を踏み出していただきたいのです。まずは、禁煙への不安も含めて、あなたの正直な気持ちを、私たちに聞かせてください。


© Sekirei Dental Clinic